会員の皆様
会長 岡村定矩(東京大学EMP)
2018年11月2日
以前に、当会メーリンクリストにて「今後、宇宙の膨張を表す法則は『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ぶことを推奨する」という国際天文学連合(IAU)の決議案についてお知らせしました(2018年9月1日)。
https://www.iau.org/news/pressreleases/detail/iau1812/
IAU総会およびその後の議論を踏まえた最終案が、10月4日に会員による電子投票に付されました。10月26日の締め切りまでに会員の37%に当たる4070名が投票しました。その結果、決議は、賛成78%、反対20%、棄権2%で採択されました。
一般社会にも広く浸透している「ハッブルの法則」の推奨名称を変えることになるので、学校教育や天文普及に関わる会員が多い本会にとっては大きな関心事です。社会、特に学校教育現場で混乱が起きないように、日本学術会議物理学委員会傘下のIAU分科会と天文学・宇宙物理学分科会はこのための対応のガイドラインを準備中で、近々「提言」として日本学術会議から発出・公表される予定です。
この決議は、「今後は『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ばなければならない」という規則改定ではありません。したがって、「これまで使われてきた『ハッブルの法則』という言葉は間違い」というような問題ではないことに注意が必要です。そうした事情を十分理解したうえで対応することが最も重要です。また「ハッブル定数」や「ハッブル時間」などなど、ハッブルの名前を冠する学術用語はたくさんありますが、「ハッブルの法則」以外はこの決議の影響を受けることはなく、従来通りです。
私は以下のような対応が望ましいと考えて日本学術会議のガイドライン作成に協力しています。まず学校教育現場での対応ですが、第1に、直ちに教科書などに対する補充資料のようなものを作る必要はなく、教科書などにおける記述変更は直近の改訂時に行い、それまでは現場での解説で対応するのでよいと思います。第2に、各種試験などで宇宙膨張の法則の名称そのものを問うて、『ハッブルの法則』か『ハッブル-ルメートルの法則』かによって解答の正否が分かれるような問題は出さないことが肝要でしょう。今回の決議の目的の一つは、「意見を交換し国際的な議論を促進する国際天文学連合総会の役割」として「歴史的事実を示す」ことでした。学校教育現場に限らず一般社会においても、しばらくの期間は、『ハッブルの法則』あるいは『ハッブル - ルメートルの法則』のどちらが使われていてもそれは問題とすべき事柄ではないと思います。さらに、一般書やマスコミ等の記述、講演会などで用いる名称も当面担当者しだいとすべきでしょう。日本学術会議の提言も概ねこの方向でまとめられると想定しています。発出までにはもう少し時間がかかります。
なお、この件についての解説記事を会誌「天文教育」11月号に投稿していますので、届きましたらご参照ください。