新会長からの挨拶 2025

2024年度から本会の会長を務めることになりました、高梨直紘です。

私が本会に参加したのは、2003年8月のことでした。当時、大学院で天文学を専攻する修士1年生だった私は、自分が面白いと思う天文学の魅力を多くの人と共有したいという素朴な動機から、大学院の仲間たちとともに天文学の「広報普及」活動を始めたばかり。ある時、身近にいた大人たちが関わっている「天文教育普及研究会」なる会があることを知り、おそるおそる、興味本位で入会してみたのでした。

しかし、入会してすぐに私は気がつきます。自分は天文の「教育」や「普及」には大した興味がない、少なくともこの会にいる人たちほど強い関心を持っていないということにです。教育や普及に関わる人たちの考えや活動、その情熱に触れるにつれ、自分たちがやってる活動はそもそも「広報普及」活動でもないな、と。では、自分たちの活動はいったいどういう意味があるのだろう…と考え始めたところから、私たちのやっていた「天プラ」の活動は形作られていったのでした。

そんな少々ひねくれた関わり方ではありましたが、そんな学生たちにも本会の皆さんは温かく接して下さいました。亡くなられた佐藤明達さんにも、お小言を頂戴しつつも、なんだかんだとかわいがっていただきました。これは、私たちがたまたまそのような幸運に浴したのではなく、コミュニティの持つ伝統だと言えるでしょう。本当?と思う方は、ぜひ本会の初期の会報を確かめてみて下さい(目次だけならオンラインで読めます)。いまも活躍されるあの人やこの人の若かりし頃に出会うことができます。本会は「教育」や「普及」に関心を持つ若い世代にとって、常になんらかの形で影響を与え、成長の場を提供してきた存在だったのです。

そんな本会ですが、設立から40年近くが経過したいま、大きな転機を迎えつつあります。分かりやすい課題のひとつが、会員の年齢構成の変化です。50〜70代の会員が全体の7割近くを占める一方で、20代の会員は1割にも満たず、日本の人口構成と同様に高齢化が進行しつつあります。このままでは遠からず、財政的に破綻するでしょう(本会は会費収入でのみ成り立っている会です)。10年後、20年後も本会が継続して日本の天文教育や普及に貢献していくためには、なんらかの手を打たなければなりません。

天文教育や普及を取り巻く環境の変化にも意識を向ける必要があります。90年代以降の天文学の飛躍的な発展、プラネタリウムや公開天文台などの社会教育施設の充実、天文ファン層の拡大などポジティブな要素がある一方で、学校教育における地学分野の苦戦、教育・普及に関わる者の待遇の問題、次世代の担い手不足など、ネガティブな要素も少なくありません。定款に掲げる<天文教育の振興及び天文普及活動の推進をもって社会の文化形成に貢献すること>という目的を達成するために、私たちはなにをすべきであるのか、改めて考えてみる必要がありそうです。

もっとも、それを考える際のヒントは、すでに私たちの周りにたくさんあるように思います。さまざまな目的、背景、立場、方法、スタイル、そして美学の下で活動されている多彩な会員を抱えているのが本会の大きな特徴であり、強みでもあります。会誌「天文教育」への投稿、夏の年会支部会での発表でもその一端を知ることができますし、まだ顕わにされていない魅力的な活動もたくさんあることは、皆さんもお気づきのことでしょう。そういった会員の皆さんの経験、そこで培われた感覚や磨かれた思考を頼りに、私たちが進んでいくべき方向を明らかにしていきたいと考えています。

当然のことながら、それは会員の皆様の協力なしには為しえないことです。ワーキンググループ支部、分野の活動はもちろんのこと、代議員や各種委員会、事務局や執行部の運営はすべて会員の力によって支えられています。会誌を読む、会誌に投稿する、支部会に参加して話を聞く、支部会で発表する、催しに参加する、催しを主催する、メーリングリストで議論する等々、いろいろな関わり方があります。いや、自分はもう引退して若い人に…などと思っている方、若い人はあまりいないんです。まだまだ頑張って下さい。まだ経験不足で、右も左も分からないから大人しくしておこう…などと考えている方、ここは右も左もないので遠慮なく好きなことをやってみましょう。仕事が忙しくてとてもとても業務外の活動は…と思っている方、できる範囲のことで十分です。ぜひ力を貸して下さい。私も微力ながら尽くしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。