2017年1月 天文教育普及研究会
会長 縣 秀彦
新春の候、皆様方におかれましては、御健勝のことと、謹んでお慶び申し上げます。旧年中も本会会員である無しに関わらず、多くの皆様が日本各地で天文教育や天文・宇宙系の科学コミュニケーション活動に積極的に参加されました。その中で本会の活動に関しても、多くの方々から協力・支援等を賜れましたことを、深く御礼申し上げます。
天文の話題が巷で取り上げられる度に、天文は何の役に立つのか?とよく尋ねられます。天文は音楽や算術・幾何と並んで五千年以上の歴史を持つもっとも古い学問の一つであり、暦を作り時刻や方位を知る実学として必要でした。また、宇宙と対峙する際、人類は、私は誰?此処は何処?と問い続けてきました。宇宙は人々の知的好奇心を刺激するまさに哲学の対象でもありした。そんな天文をみんなの科学と呼ぶ人もいます。
それだけではなく、天文は対話の道具(コミュニケーション・ツール)として機能してきました。人と人が再会を約束するとき、季節や時刻や居場所を教えてくれる天文は、人と人を繋ぐ、すなわち「人間」として文化・文明を共有する上で、必要不可欠な道具です。
昨年は天文学の歴史に刻まれる記念年となりました。それは重力波の直接検出成功です。数千年に渡り光の文を、また近年80年程度に渡っては電磁波全般を天からの文として読み解く努力をしてきた人類が、いよいよ天からのマルチメッセージを読み解く時代に入りました。その一方、近い将来、系外惑星系に住むかもしれない知的生命体との対話道具も、その天体を探し出す天文学であり、情報をやり取りするのは数学=デジタル信号、そして気持ちを伝え合う手段の一つは音楽なのかもしれません。長年に渡り一方的に天からの文「天文」を読み取ってきた人類が、いよいよ天に向かって文を送る時代が近づいています。
このように、過去と未来を結ぶ現代社会に生きる私たちにとって、天文は短期的な経済活動において役に立つか立たないかで判断される類のものではなく、数学や音楽同様に人類共通の教養として、人間の幸福実現に不可欠な一つの要素ではないでしょうか?
人類は約400年前に、地球中心の宇宙から太陽中心の宇宙へコペルニクス的転回を果しました。私たちは近未来に、もう一つの大きなパラダイムシフトを経験するのかもしれません。TMT(30m望遠鏡)など次世代大型望遠鏡は、地球外生命が存在する系外惑星を見つけ出す能力を秘めています。そして更なる将来、知的生命体との対話も夢物語ではなくなるのかもしれません。そんな時代を見据えて本会は法人化し、活動の足腰を鍛えようと決意しました。
学術探究としての天文学研究は、IAUや日本天文学会などの学会組織が学界を強化し、次世代を育成しています。一方、そのカウンター・パートナーとしての当会が果す役割は、人間の幸福実現に向けての文化としての天文、すなわち天文文化の発展への寄与と、広義の天文教育推進という公益事業でありましょう。
長く物理領域の一分野であった天文・宇宙が、今日では総合科学として認識されつつあります。基礎科学、応用科学、そして人文科学の3領域をつなぐ要として、天文教育の発展が望まれています。
2017年、法人化を一ステップとして将来、当会が大きく発展することを願っています。