天文教育普及研究会 関東支部研究会
高校生天体観測ネットワーク 関東地区集会

「天文教育普及活動の20年,そしてこれからの20年」の全体報告

関東支部 篠原秀雄

 2005年11月20日(日),茨城県のミュージアムパーク茨城県自然博物館内セミナーハウスを会場に,天文教育普及研究会 関東支部研究会を開催しました.テーマは「天文教育普及活動の20年,そしてこれからの20年」です.天文教育普及活動のこれまでの20年を振り返り,今後の20年を展望しようというもので,2006年の夏に予定している天文教育研究会・天文教育普及研究会年会で予定しているテーマと同じものです.同時に,1998年のしし座流星群以来活動を続けている高校生天体観測ネットワーク(Astro-HS)についても,同様にこれまでを振り返ってみようということで,Astro-HSの関東地区集会を兼ねるものとしました.
 基調講演は,天文教育普及研究会の第二期会長であった東京学芸大学の水野孝雄氏と,Astro-HSの立ち上げ以来常に中心になって活動してこられた春日部女子高校の鈴木文二氏にお願いしました.
 参加者は約25名で,中には静岡や,さらに遠いところでは京都や和歌山から参加していただいた方もいらっしゃいました.研究会の後の懇親会にもほとんどの方が参加し,さらに議論が続きました.

■各講演の内容

 基調講演では,まず水野孝雄氏から,「天文教育普及研究会・これまでの20年とこれからの20年」と題して,天文教育普及研究会の歴史と今後の展望をお話ししていただきました.立ち上げ当初の様子,例えば会の名称に「普及」の文字を入れるかどうかについての熱い議論の雰囲気などがよくわかりました.また,今後を展望するときのキーワードとして「少子化」,「高齢化」,「民営化」をあげ,特に少子化による学生の質の低下やベテラン教員の大量退職時代がやってくることによるノウハウの断絶などから教員の質の低下が懸念されること,そして初等教育の教員の9割は文系であることを考慮すると,この会は文系の教員でも入りたいと思えるようなものにする必要があるという意見を述べられました.

 鈴木文二氏の講演「Astro-HSで何ができたのか」では,Astro-HSの活動の根底にある「本物の星空を高校生に見せよう」というポリシーが,とかくバーチャルに走りがちな今の時代に,貴重なものであると再認識できました.講演の中で紹介された「いろいろな場所で,同じ流星を追う,まだ顔も見たことない高校生と時間を共有した」ことに感動したという高校生の感想が,Astro-HSの本質をよく言い当てているのではないかと感じました.

 続いての研究発表は,次のような内容でした.

(1)「小・中学校の教科書から見る天体の学習 30年の変遷」 大島 修氏
 小・中学校の理科の教科書の30年を振り返る発表でした.実際の教科書の内容が示され,過去のものとくらべて,今の教科書の内容が大きく削られてしまっていることがよくわかりました.

(2)「PAONETの成果と今後の展望」 尾久土正己氏
 公開天文台ネットワーク(PAONET)の立ち上げの経緯とその経過をお話しいただきました.インターネットが普及する前に,少しでも早く画像を配信できるネットワークをつくろうと構想し実行したこと,その後のインターネットの普及により2003年の十周年時にはPAONETをやめることも考えていたこと,しかし膨大なアーカイブと人と人とのネットワークを生かそうという発想から新たにPAODBを立ち上げたことなど,その時代の一歩先を行く活動の様子がわかりました.

(3)「プラネタリウムを振り返る」 根本しおみ氏
 プラネタリウム解説員としての視点から,児童・生徒を取りまく学習環境の変化が報告されました.学習指導要領の変化が学習投影の対象学年の減少につながっていること,学習投影へ参加する機会が減ったことから「月も星も一度に投影してほしい」という学校側からの要望が増えたこと,その結果投影が長時間になり子ども達への負担が増えてしまったことなど,様々な問題点が指摘されました.一方で,少子化の影響からか親の教育への関心が高まり,親子参加型のイベントに人気があること,またその参加者の半数は大人であることなどの状況についても報告されました.

(4)「天文教育と科学的素養」 五島正光氏
 天文教育の意義を理科教育全体から考えたときに「科学的素養」がキーワードとなるということを示し,その「科学的素養」の構成要素として,「概念的知識」,「科学の倫理」,「科学と人文」,「科学と社会」,「科学と技術」などをあげられました.そして,新しい天文教育として,専門家と同じ研究を高校生も行うことが可能になっていることを指摘し,”科学者を味わう”という活動,すなわち天文教育における「科学の鑑賞」がもつ意義を論じられました.

(5)「天プラの目指す『これからの20年』」 塚田 健氏
 2003年に当時の修士学生等によって始められた「天プラ」(=「天文学とプラネタリウム」)の活動についての報告でした.天文普及活動に関心をもつ研究者志望の学生が少なからずいるにも関わらずアウトリーチ文化がまだまだ定着していないといった状況から,”普及活動の普及”を活動の柱として,これまでのスタイルにとらわれない新しい天文学の普及活動を展開している様子がよくわかりました.また,普及活動を「与える側」からの視点だけでなく「与えられる側」からの視点,特に「幼・老・障」の立場からの視点の重要性についての指摘は,今後の普及活動に欠くことのできないものであると感じられました.

討論について

 次のようなテーマでの議論がありました.

(1)天文学会(以下「学会」)による教育普及活動と,天文教育普及研究会(以下「研究会」)の存在意義について
 学会に教育普及活動に関心を持つ人が増えれば研究会はいらなくなるという意見や,逆に学会と研究会とでは教育普及活動に関わる視点が異なるので研究会の存在意義はなくならないという指摘がありました.

(2)天文教育に関する英文論文を投稿する場について

(3)天文学を学べない大学に対する何らかのアクションについて

(4)障害をもっている人への教育普及活動について

 特に,(2)(3)(4)については,その後の研究会のメーリングリスト上で展開された議論をまとめられた嶺重慎氏の記事(「天文教育」No.78[2006年1月号]所載)に詳しく掲載されましたので,そちらご覧ください.

 今回の研究会では,どの講演テーマをとっても,それぞれで独立した研究会を開催できるほどの内容の濃いものでした.次回の関東支部研究会では,さらにテーマを掘り下げ,2006年夏の研究会・年会へとつなげていきたいと思います.


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