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2016年5月20日
文部科学省 研究振興局学術研究助成課 御中
独立行政法人 日本学術振興会 御中

科学研究費補助事業(科研費)審査システムへの要望書
〜科学教育と科学コミュニケーション研究の振興を〜

天文教育普及研究会※1
会長 縣 秀彦

 日本学術振興会が取りまとめました「科学研究費助成事業(科研費)審査システム改革2018(報告)」について、天文教育普及研究会では会員からの意見や要望を踏まえ、次に掲げるように、改革案の問題点とその解決に必要と思われる具体的な修正案について取りまとめました。今後の審査システム改革の内容の検討・取りまとめにあたっては、本会として配慮を強く要望するものであります。ご高配のほど、よろしくお願いいたします。

【改革案の問題点】
・提案されている審査区分から現在の細目名「科学教育」が消え、それに該当する審査区分が設定されていない点。
・提案されている新しい小区分において、現在の細目名「科学教育」のキーワードに挙げられていた科学と社会・文化、科学コミュニケーションなどに対応する区分やキーワードが、欠落している点。

【具体的な修正意見】
1. 中区分9:教育学およびその関連分野に小区分として[科学教育関連](または[インフォーマル科学教育関連]、[科学コミュニケーション等関連])等の新規小区分を加えること。
2. 上記新区分のキーワードに科学と社会・文化、科学コミュニケーションなど他の小区分に入っていない科学教育に関わるキーワードを加えること。

【要望の理由・背景】
細目名「科学教育」が廃止されることで影響を受ける学術団体の会員数は相当数に上ります。科学技術振興機構(JST)などの「学会名鑑」 https://gakkai.jst.go.jp/gakkai/ によると、
日本地学教育学会(1948年設立) 正会員約500人
日本物理教育学会(1952年設立) 正会員約1,200人
日本理科教育学会(1952年設立) 正会員約1,800人
日本生物教育学会(1957年設立) 正会員約700人
日本科学教育学会(1977年設立) 正会員約1,200人
天文教育普及研究会(1989年設立) 正会員約600人
日本環境教育学会(1990年設立) 正会員約1,000人
など、会員の重複はあると思われるものの、延べ人数で最大約7,000人もの関係者に影響が生じます。関連分野として考えられる日本教育学会の約3,000人、日本教育工学会の約2,100人の会員数と比べても、研究分野としては十分に大きいものと言えます。この約7,000人の関係者全員が、中区分9内の他の小区分である初等中等教育学関連や高等教育学関連という学校教育分野の個別研究のみを行っている訳では無く、社会教育や生涯学習、社会と科学や科学技術コミュニケーションなどの分野と関連する研究およびそれらの横断的な研究を進めている者が多数おります。それを裏付けるように、細目「科学教育」への応募数は約500-600件ほどがあり、近年では増加傾向にあります。
 上記のような広義の科学教育は日本では半世紀以上の歴史があり、このままではこれまで蓄積されてきた研究の継続に支障をきたす恐れがあります。さらに、科学教育の分野では、新しい研究も次々に立ち上がっています。そのひとつに、社会と科学技術をつなぐ科学技術コミュニケーションがあります。科学コミュニケーション(または科学技術コミュニケーション、サイエンスコミュニケーション)の重要性は国際的にも高まっています。本会が活動する天文分野においては、近年のコンピュータグラフィックス技術の急速な発達に伴い、プラネタリウムや科学館等における全天周映像を科学教育の視点からどのように作るべきか等、新しい科学教育分野の研究課題も登場してきており、科学教育への期待がますます高まりつつあります。1999年に開催された世界科学会議(ブダペスト会議)の世界宣言を踏まえ、国内でも科学技術の成果の社会への還元に向けた施策が展開され始めてから10年以上になりますが、この間、多数の研究者が細目「科学教育」の科研費を取得し、研究を重ねてきました。改革案では、このような事情が一切考慮されていないように見受けられますので、本会として先に挙げるような修正意見を述べる次第です。

なお、上記の要望を実現するために、本会といたしましても天文教育研究会の開催や全国の各支部における支部研究集会の開催、本会ホームページにおける会誌のアーカイブ公開などを通して、天文教育・天文分野の科学コミュニケーション研究を進めて参ります。



※1 天文教育普及研究会
日本学術会議の協力学術研究団体で、天文教育の振興および天文普及活動の推進を目指す会員数約650名の団体です。  
http://tenkyo.net/
※2 中学校学習指導要領 理科の目標
自然の事物・現象に進んでかかわり,目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に探究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な見方や考え方を養う。(学習指導要領第2節第4節第1より抜粋)


●2016年12月28日 科学研究費助成事業審査区分表の決定について


   

天文教育普及研究会 Japanese Society for Education and Popularization of Astronomy