→ 天文教育普及研究会のトップページへ

2013年 会長からの新年のメッセージ


 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 昨年は、(金環)日食、金星の太陽面通過など、天文イベントに恵まれた年で ありましたが、今年も、二つの大きな彗星接近という話題があります。本会の機関誌「天文教育」誌でも、 年間を通じて彗星を特集し、「思い出の彗星」という連載が始まると聞いています。 全国的にさらに活動をもりあげるきっかけとなることを期待しています。

 本会は地域ごとに「支部」を設け、支部運営委員のもと活動を行っております。 今年も強調しておきたいのは、各支部で開かれる支部会を活用して、多くの方々で各地域の天文教育活動を 盛り上げていこう、ということです。ここ数年、私は全国各地で開かれている支部会にできる限り出席 しようと心がけています。なぜか、九州支部会だけはずっと縁がなかったのですが、ついに昨年12月、 念願の会合に参加することができました。運営委員の原秀夫さん、橋本未緒さん他のご尽力により、 熊本城の敷地内にある熊本博物館で支部会が開かれ、のべ21名の参加者を得てまことに盛会でした。 招待講演を含めた計18件の発表、どれをとっても興味深いものでしたが、初日に招待講演された 熊本日日新聞社の鹿本成人氏の「犯罪や事故だけだと暗くなる紙面を明るくする素材として天文の話題 は受けるのです」といったお話や、白鳥裕さんが全国各地の新聞社から集めてこられた金環日食の新聞 記事は、特に印象深いものでした。
 一口に「支部会」といっても、それぞれの地域独特の「色」がついている思いがします。関東と近畿は、 人口が集中していることから、会員数も多く、いろいろな色が集まってミニ年会のような賑やかさですが、 地方にいきますと、味わい深い「色」が出てきます。日頃、地元に密着して土地にしっかり根をおろし、 草の根的に活動を続けておられる方々が、年1回の支部会に、時間をかけて集まってこられます。 独特の「色」とは、そうした地道で実直な活動から醸し出された一種の品格のようにも思います。 そういう魅力ある人たちにお会いできるのが、支部会巡りの大きな楽しみの一つです。


 私事で恐縮ですが、私は出前授業で生徒たちに天文の話をするとき、 「宇宙を学ぶということは、私たちについて理解を深めること」ということを肝に銘じています。これは 2005年に岩波ジュニア新書「天文学入門」の企画をねっていたとき、黒田武彦さんが繰り返し強調された ことです。宇宙が生まれておよそ90億年で太陽系ができ、地球が生まれて46億年で私たちまでいきつきました。 その長い年月にはそれぞれ意味があります。私たちという存在は、宇宙137億年の歴史でじっくり準備されて きた、ということもできるのかな、と思います。「私たちひとりひとりはユニークで貴重な存在である」、 そのことを語る語り方は、宗教、文学など、いろいろありますが、科学的に語るというとき、天文学に 勝る学問はないように思います。

 今、「業績」とか「効率」とかいうことばが巷にあふれています。そこでは 「数」がものをいいます。しかし「数」にとらわれると、目の前にいる「一人の」人が見えなくなります。 目の前の人が見えないと、やがて私たちは自分自身をも見失うでしょう。思えば、私たちの先達たちは、 観望会を通じて目の前にいる人を大切にすることを、昔から 実践してきたように思います。私たちの 行っている活動は、今の社会の価値観に逆行しているようですが、一人ひとりの魂と向き合い、共に感じ、 共に学ぶ感性 を育む活動は、長い時間では、確実に世に広がっていくものと私は信じています。

 今年も多くの活動を計画(あるいは既に実行)されていることでしょう。 星を見つめ、宇宙に思いをはせて、ひいては自分と、自分の目の前にいる人々への思い を深める、 そのような活動を今年も続けていきましょう。そして、その報告をぜひ「天文教育」誌に発表していただき、 さらに多くの方々と共有しましょう。

2013年1月 天文教育普及研究会
会長  嶺重 慎



   

天文教育普及研究会 Japanese Society for Education and Popularization of Astronomy