2014年 2 月 13日
杉並区長 田中 良 殿
杉並区教育長 井出 驤タ 殿
杉並区議会議長 大泉 時男 殿
天文教育普及研究会        
会長  嶺重 慎 (京都大学)


杉並区区立施設再編整備計画における科学館廃止案の見直しを求める要望書


 このたび杉並区におかれましては、多様化する区民ニーズに責任をもって応えるべく「杉並区区立施設再編整備計画(案)」を公表されましたこと、誠によろこばしく思います。
 私ども天文教育普及研究会は、日本学術会議協力学術研究団体の登録団体で、天文分野を中心に広く自然科学の教育・普及を目的とした全国組織(会員641 名)です。所属する会員の多くは小中高の学校、大学、天文台、研究機関、科学館、プラネタリウム施設等で働く方々です。
 昨今の財政難に伴う危機的状況下にあって、自治体運営に携わる皆さまのご苦労は察してあまりあるものがございますし、その中で、多くの自治体において、本会関係者が携わる教育・文化活動へのご理解とご支援をいただいていることは幸甚の至りです。
 とりわけ杉並区は、旧・都立教育研究所の創立に先立つ3年前、いち早く教育研究所を設置した自治体として著名であり、児童生徒およびその親たちの教育・文化レベルの高さは、私どもが関わった講演会、講座、教室、天体観望会等の催しにおける担当者の知るところでもあります。
 しかしながら、今回の施設再編計画案の中で科学館の廃止が盛り込まれていることを聞き及び、会員一同、大変驚いています。
 杉並区立科学教育センター(現・科学館)は1969 年に設立されて以来、地域住民、児童生徒のための科学学習支援活動を続ける一方で、中規模プラネタリウムを備えた旗艦施設としてハード、ソフ ト両面で全国の科学館、プラネタリウムの運営と活動に多大な影響を及ぼし続けてまいりました。とりわけ、区立教諭の方々との長年にわたる連携成果として生まれたプラネタリウム学習投影は、そのノウハウを知るため全国の施設から視察者が絶えないと聞きます。一般向けプラネタリウムにおいても、ストーリー性のある劇場型番組を始めたのは杉並が最初と伺っています。現在、このスタイルは全国的な広がりを示しています。ということは、「杉並の活動」が全国的に注目され、また認知されていることの立派な証拠であると、私どもは考えています。さらにアメリカ航空宇宙局との連携授業にはじまり、最近では国立天文台ハワイ観測所との連携授業など、その活動は天文関係者のみならず広く科学普及に携わる人々の注目を集めるものとなっております。
 本会としてもっとも重視する活動の一つに、市民の皆さん自身が本物の天体を見て感動を味わっていただきたいと願う天体観望会があります。都市部では種々の困難さもあり、行っている施設、団体はごくわずかですが、杉並区は拠点となる施設のおかげもあり長年にわたる活動を続け、国立科学博物館の観望会に匹敵する参加者数と聞きます。
 “教育は百年の計”と申しますが、以上のような本会が関わる天文分野のみならず、広く自然科学諸分野の学習支援活動を体験した思い出を、とても印象深く語るたくさんの方々がいらっしゃいます。世界的に活躍する研究者から教育関係者、家庭の主婦の皆さんに至るまで、その成果はようやく出始めたところなのだ、と言えましょう。また、杉並区立科学館出身で、本会をはじめ自然科学諸分野の学会に属し日本や海外の関連施設で活躍する方も多数いらっしゃいます。実際、科学館廃止の計画が明らかにされた直後から、本会のメーリングリストには、驚きと共に、若い時に自然科学に親しむ体験を杉並区立科学館でさせていただいたことへの感謝のメールが、全国各地で、そして海外でご活躍の会員から、多数寄せられているところです。
 再編案の実施計画が描くところの、学校教育と生涯学習機能の分散と児童生徒の直接体験を志向した科学館学習の廃止、さらに、講話だけに終わらない実験観察実習が行える成人のための科学講座の廃止という取り組みが現実に行われた場合、“区民が科学に親しむ機会の充実”、“学校における理科教育の推進”と誇れるかどうか危惧するものです。
 介護問題等の緊急性を要する課題を最優先された今回の再編案における科学館廃止のご決断は、区政運営に携わる皆さまも施設の実績と全国的評価を十二分にご理解なさっている上での、苦汁の決断かとお察しいたします。
 しかしながら結果として、長年培われた科学文化育成の基盤は消失し、それを再構築する試みは困難を極めることと思われます。ぜひとも多様なニーズに応えるべく、また杉並区の将来を担うこどもたちの科学に対する感性を今後も育てていくために、文化都市杉並の誉れ高い区民の皆さまの要望を収集分析し、後顧の憂い無きよう長期的視野に基づいてご判断いただいた上で、杉並区立科学館の存続あるいはそれに代わる措置をご高配賜りたく、本会として切にお願い申し上げます。
 



   

天文教育普及研究会 Japanese Society for Education and Popularization of Astronomy